研究成果「ステンレス鋼のへール加工の研究」
1 はじめに
電気・電子・半導体関連の製造工程において,高真空状態を維持可能なステンレス製チャンバー状の製造装置が広く使用されています。これらの製造装置は,シール面にOリングを介して密封することで内部の真空を維持します。シール面の加工は回転工具による溝切削が慣用的に行われてきましたが,その加工面には円弧状切削痕が残り,この切削痕に沿って微かに気体がリークする恐れが指摘されるようになりました。
近年,これらの課題を解決する方法としてヘール加工の活用が注目されています。へール加工は,カンナのような工具を回転させずに運動させて運動方向と平行な加工筋目をシール面に創成します。この加工筋目が高真空を維持する堤防状のテクスチャ構造としての役割を期待されています。
そこで本研究では,当センターの汎用マシニングセンタを用いて,へール加工のモデル実験を行い,加工面の表面性状等を調べたので,報告します。
2 超硬ソリッド工具による加工面
図1(a)に実験に使用したへール工具を示します。超硬のソリッドタイプで,県内企業において試用されていたものです。この超硬ソリッド工具による加工面には図2の写真に示すような波長10μm程度(100μm格子あたり10本程度)のビビリ痕が認められました。また,図3のような波長5~600μm程度のうねり痕も発生し,これらを完全に除去することはできませんでした。
3 制振合金工具の適用
新たに制振合金を採用したへール工具を製作しました。これを図1(b)に示します。チップは超硬のスローアウェイタイプで,市販のチップを活用し,安価に適用できるように工夫しました。この工具を使用することにより図4に示すようにビビリ痕を除去することができました。また,図5に示すようにうねりの波長を2300μm程度と図3の波長に比較して4~5倍程度に長くなり表面性状が向上しました。
4 おわりに
工具ホルダに制振合金を採用することにより,超硬工具で発生していたビビリ痕・うねり痕を低減でき,シール面の表面性状向上に寄与できました。
(生産技術部)